成果概要

Venus ExpressのVMC画像から求めた雲頂での東西風速の長期変動2013年1月30日

金星探査機あかつきの観測目標でもある金星大気「スーパーローテーション」は、その発見から40年以上にわたって存在し続け、非常に安定した現象であると考えられています。他方、NASAによるPioneer Venusミッションでの観測からスーパーローテーションの名前の由来ともなった秒速100mの西向きの風がぴったり秒速100mを維持しているのではなく、10%以上の変化を伴うことが報告されていました。しかしながらその変化はたまたまであるのか、あるいは規則正しい周期的な変化であるのかは不明であり、スーパーローテーションの「現在の姿」を知るうえで重要な観測課題となっていました。
そこでこの研究では欧州宇宙機関の金星探査機Venus Expressに搭載されたVenus Monitoring Camera (VMC)で撮影された金星の紫外波長画像に写る雲の動きから風速を推定し、2006年から2010年までの観測データを解析することで雲頂高度における東西風速の長期変動を調べました。雲の動きから風速を求める方法としては、プログラムによる自動雲追跡法を使用しました。雲の移動速度と実際の風速が等しいとは限りませんが、以下では雲の移動速度は風速と等しいと仮定し、「風速」という言葉を使います。VMCが金星の昼側を広く観測できた期間は2006年5月から2010年3月の間に7回あり、各回のデータを詳しく解析することで短い周期の変化を調査し、また全7回の期間をつなぐことで長期にわたるスーパーローテーションの変動を調査しました。

過去の研究では雲頂における風速はローカルタイム(金星の自転周期を24時間として、その地点の太陽が南中する時刻を12時と定めた時間)に依存することが知られています。今回の研究では長周期の変動を調べたいので、まず解析対象のローカルタイムは12時から14時に限定し、ローカルタイムに依存する風速変化の影響を取り除きました。南半球の5つの緯度帯において得られた風速の時間変化を調べたところ、いくつかの顕著な変動が見つかりました(図1)。東西風速について20~30 m/sの強さの4~6地球日周期の変動と、風速20 m/s程度の強さの数百地球日周期の変動です。また、南北風速には東西風速と同様の4~6地球日周期の変動の他、8 m/s程度の強さで東西風速とは無相関の周期的変動が見られました。

fig1.png 図1:(左側)2006年5月から2010年3月までの観測データから得られたローカルタイム12時~14時、南緯18度における東西、南北方向の平均風速の時間変化。横軸は2006年4月20日からの日数(単位は1地球日)。Epoch 1、2、...、7はVMCでローカルタイム12時~14時に観測できた7つの期間。白丸は1地球日ごとの値で、青の実線は個々のデータから長期変動を取り出したもの。中央のグラフはEpoch 4の東西風速を拡大したもので、4~6地球日周期の変動がみられます。
(右側)ピリオドグラム解析から得られた南緯18度における東西風速と南北風速のパワースペクトル密度。破線は99%統計的に有意と考えられる強さ。東西風速には225地球日(1金星年 = 金星が太陽の周りを1周する時間)とは別に255地球日にもピークが見られます。周期4~6地球日のピークが見られないのは、Epochごとに周期が少しずつ異なるためと考えられます。

そこでピリオドグラム解析(不等間隔データの周期成分を求めるデータ解析法; 周期解析の一種)を用い、まず長期にわたる風速の周期性を調べたところ、東西風速には255地球日周期付近に強いピークが見られました。この成分は低緯度ほど周期が短く変動の強さが大きく、低緯度に渡って位相が揃っている傾向が見られました。南北方向でもいくつかの変動成分が検出されましたが、強度が弱いため統計的にはっきりしたことは言えませんでした。
惑星大気の流れは、大気中を伝わるケルビン波やロスビー波といった、様々な波の影響を受けます。このような波の生成・消滅により、大気の流れが加速されたり減速したりします。今回の研究で得られた100地球日で20 m/s程度の加減速は過去の研究での見積もりと整合的です。

次に短周期の変動に着目して風速を調べ、4~6地球日周期のより細かい周期変動やその緯度分布と背景風との関係を議論しました。各観測期間のデータを別個にピリオドグラム解析した結果のうち、いくつかには特定の緯度帯で4~6地球日周期の変動が見られました。図2は期間3と期間6で得られた東西風速、南北風速のパワースペクトル密度(変動の強さ)の緯度依存性を示したカラーマップです。
背景風との関係については、期間3は他の期間に比べて背景風が遅いことから期間3を背景風が遅い期間、他の期間を背景風が速い期間と分類し、それぞれで現れる周期特性の違いを詳しく見てみました。すると興味深いことに背景風が遅い期間では赤道ケルビン波の特徴を持つ変動がみられ、期間5を除いた背景風が速い期間(期間4、6、7)ではロスビー波の特徴を持つ変動が見られました。赤道ケルビン波は低高度から高高度に背景風と同じ向きの運動量を運び、ロスビー波は逆向きの運動量を運ぶため、それらが雲頂付近で消滅するときに背景風を加速したり減速したりします。このことが東西風速の周期振動の少なくとも一部に寄与していると考えられます。

fig2.png 図2:観測期間(Epoch)ごとに得られた東西風速と南北風速のパワースペクトル密度のカラーマップ。白の破線は90%統計的に有意と考えられる強さ。白実線は背景東西風が金星を1周する周期を緯度の関数として示したもの。Epoch 3では低緯度の東西風に背景風より速い変動が見られ、南北風には目立った変動は見られません。Epoch 6では背景風より遅い変動が低緯度から中緯度にかけての東西風および中緯度の南北風に見られます。

この研究成果は、Kouyama et al. "Long-term variation in the cloud-tracked zonal velocities at the cloud top of Venus deduced from Venus Express VMC images" として、惑星科学専門誌 "Journal of Geophysical Research: Planets" に2013年1月に掲載されました。

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