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LIR校正データ取得オペレーション2017年5月8日

 中間赤外カメラ(LIR)は物体が発する赤外線をとらえるカメラです。赤外線は常温のあらゆる物体から出ています。温度が高い物体ほど強い赤外線を出すので、赤外線の明るさを測ることで逆に物体の温度を推定できます。

図1.LIRの構造

図1.LIRの構造 © ISAS/JAXA

 赤外線を観測する際にやっかいなことは、カメラ自身からも赤外線が出ていることです。これはカメラを極低温に冷やさない限り避けられません。LIRは冷やす代わりに、温度をなるべく一定に保つことで、カメラ自身からの赤外線の影響を最小限に抑えています。例えば最も大きな影響がある赤外線検出器の温度は40±0.01℃に保たれています。

 次に影響が大きいのがレンズの温度です。レンズの温度が一定になるように、センサーで温度を測りヒーターで温めています。実際には、温度センサーをレンズに貼り付けると入射する光の邪魔になるので、センサーはレンズのマウント(枠)に貼り付けられています。

 「あかつき」が金星周回軌道に投入されてからLIRは8000枚以上の画像を地上に送り届けています。ところが、それらの画像から変換された金星大気温度を調べると予期しない不自然な温度むらや変動があることがわかりました。詳しく調べてみると、LIRのフード(図1)の温度が高いとLIRが観測する金星温度が高くなる傾向があることがわかりました(図2)。

図2.フード温度の影響

図2.フード温度が57℃のとき(右)と−41℃のとき(左)にLIRが撮像した金星像。フード温度が高いと金星像の温度が全体的に高くなっています。© ISAS/JAXA

 フードはLIRが金星を観測中に太陽光が直接レンズに当たるのを防ぐ役割があります。LIRの視野方向と太陽方向の関係によって、フードは太陽光に照らされたり「あかつき」本体の陰に入ったりします(図3)。フードは太陽光を反射するように設計されていますが、太陽光の一部は吸収されてフードを温めます。温まったフードからは赤外線がより強く発せられて、その一部がレンズに吸収されてレンズを温めているのではないかと推測されます。温度センサーが取り付けられているレンズマウントはヒーターで制御されて一定温度に保たれているのですが、レンズ自体の温度がフードからの赤外線の変化によって変動していると想像しています。

図3.フードへの太陽光照射

図3.「あかつき」の姿勢変化に伴うLIRフードへの太陽光照射の変化。LIRフードは左の図で赤い円で示されています。LIR視野は右斜め下方向を向いています。左、中、右の図では、それぞれ太陽光がLIR視野中心方向から30°、90°、180°の方向から照らしています。30°の場合、太陽光はLIRフードの外側と内側の一部を照らしています。90°の場合はフードの外側にのみ太陽光が当たります。180°の場合は「あかつき」本体の陰に入ってフードに太陽光は当たりません。© ISAS/JAXA

 観測時の太陽方向に対する「あかつき」の姿勢が様々に変化し、それに伴ってフード温度が変化すること自体は避けようがないので、フード温度を使ってデータを補正する方法を考えました。2016年9月21日は「あかつき」から見て金星と太陽の方向が近すぎるので観測ができない期間(金星観測禁止期間)にあたっていました。その期間を利用して、LIRの観測視野中心方向と太陽方向のなす角度が30°から120°まで15°ずつ変化するように「あかつき」の姿勢を変えながら、LIRで宇宙空間を撮像しました。宇宙空間からLIRで検出できるレベルの赤外線は発せられていないので、本来真っ暗に写るはずです。しかし、レンズがフードからの放射で温められると、レンズからの赤外放射が写ります。得られたデータを使って撮像時のフード温度とLIR画像から得られた宇宙空間の見かけの温度の関係を調べると、きれいな比例関係が見られました。この関係を使えば、フード温度が画像に与える影響の問題を解決することができる目処が立ちました。

 2016年9月21日のデータよりもさらに詳細なデータを取得するために、2017年4月中旬から再び始まった金星観測禁止期間を利用してLIRによる宇宙空間の撮像を行っています。今回は、前回よりも広い範囲で「あかつき」の姿勢を変化させ、さらに、姿勢変更後に温度が安定するまでの待ち時間を長くとっています。今回の宇宙空間撮像で完璧な補正データを取得できると見込んでいます。これによって、LIRデータを使って過去に観測された大気温度との比較や金星全体のエネルギー収支など、さらに広い範囲のテーマを研究できるようになります。

田口 真(立教大学)